医療機関に勤める中で、求められるスキルも、目指すキャリアも少しずつ変化していきました。その過程で、いくつかの資格を取得してきました。これまでどんな資格を取ってきたのか、取得順に振り返ってみます。医療事務に興味のある方の参考になれば幸いです。
医科医療事務管理士
取得した時期:医療機関で働く前
難易度:★★☆☆☆
稼げる度:★☆☆☆☆
医療事務への転職を考え始めた頃、ユーキャンの医療事務講座を受講し、最終的に「医科医療事務管理士」の試験を受けました。
医療事務に関する資格は本当にたくさんあり、どれを選べばよいのか迷う方も多いと思います。私がまさにそうでしたし。テレビCMなどで馴染みのあったユーキャンに安心感を感じ、合格率も(当時)約50%と現実的。履歴書にも書ける資格ということで、「とりあえず取っておいて損はないかも」と思い、受験を決めました。
この資格では、診療報酬の請求事務に関する基本的な知識を学べます。実務経験のある方には物足りなく感じる内容かもしれませんが、これから医療事務を目指す初心者にとっては、良いスタート地点になる試験だと思います。
実際、面接の際には「事前に資格を取得して応募してきた=意欲がある」と前向きに評価していただけました。
ホスピタルコンシェルジュ3級
取得した時期:医療機関で働き出した直後
難易度:★☆☆☆☆
稼げる度:★☆☆☆☆
当時、所属していた会社からのすすめで「ホスピタルコンシェルジュ3級」を受験しました。内容は、医療に関するごく一般的な基礎知識でしたので、もともと製薬業界にいた私にとっては、特に難しいと感じることはありませんでした。
とはいえ、医療機関の窓口に立つものとしては、「これくらいは知っておいてほしい」というレベル感の資格です。この資格を持っているからといって何か特別に評価されるわけではありませんが、これから医療事務の業界に足を踏み入れようと考えている方や働き出して間もない方にとっては、医療事務に必要な初歩的知識を効率よく、体系的に学ぶきっかけとして悪くない選択肢だと思います。
接遇や健康保険、社会保障の仕組みなど、診療報酬以外の知識が多く学べる資格となっています。
診療報酬請求事務能力認定試験
取得した時期:医療機関で働き出して3年目くらい
難易度:★★★★☆
稼げる度:★★☆☆☆
診療報酬の請求事務に関する試験は数多くありますが、比較的難易度が高く、資格取得者もそう多くはない資格です。それなりに勉強時間も必要です。診療報酬の請求事務について、ちょっと難しいことまで知っているよと言える資格だと思います。
しかし、残念ながらこの資格は2025年度で終了します。本試験事業を実施している公益財団法人日本医療保険事務協会から、試験事業の終了と協会の解散がアナウンスされています。
第1種衛生管理者
取得した時期:医療機関で働き出して3年目くらい
難易度:★★★☆☆
稼げる度:★★☆☆☆
病院の中には入院・外来とは別に健康診断を実施する部門を構えているところが少なくありません。私自身も、短期間ながら健診部門に配属されたことがあり、その際に衛生管理者の資格を取得しました。
衛生管理者とは、労働安全衛生法に基づき、職場の健康管理や労働環境の改善を担う資格です。法的に実施が義務付けられている健康診断などに関する知識を体系的に学ぶことができます。
この資格には1種と2種があり、1種はより高度な内容を扱う上位資格とされています。
自身が健診を提供する立場で役立つのはもちろん、労働者側の立場でも、健康や安全に関する理解を深めるうえで有益な資格です。事業所によっては、衛生管理者としての職務に手当がつくケースもあるようです。
診療情報管理士
取得した時期:医療機関で働き出して5年目くらい
難易度:★★★★★
稼げる度:★★★★★
だんだんマニアックな資格になってきました。「費用はかかるけれど需要は高い、ただし実務力の保証にはならない」——そんな印象を受けたのが、この診療情報管理士という資格です。
診療情報管理士とは、診療記録および診療情報を適切に管理し、そこに含まれる情報を活用することにより、医療の安全管理、質の向上および病院の経営管理に寄与する専門的な職業です。
(日本診療情報管理士会より)
個人クリニックや小規模医療機関ではあまり需要がないかもしれませんが、大規模病院では比較的取得が推奨されている資格です。また、医療事務の求人情報で最も目にする機会の多い資格です。
取得ルートには、大学・専門学校で学ぶ方法と、通信教育(約2年)を経て受験する方法の2通りがあり、私は通信教育で受験しました。受講料は約20万円と高額でしたが、取得後は月2万円の資格手当がつくことになっていたため、「これはお得」と思って受験を決意。
結果的に資格手当ももらえましたし、昇給や処遇の改善にもつながったので、私の医療機関勤務歴の中でもっとも費用対効果の高い資格だったと感じています。
一方で、学んだ内容は実務にすぐ役立つものと、学術的な知識が半々といった印象。実際、有資格者でも「実務はちょっと…」という方も見かけました。資格が実力を保証するとは限らないというのは、どんな資格にも共通する点かもしれません。
がん登録認定者(初級)
取得した時期:医療機関で働き出して5年目くらい
難易度:★★★★★
稼げる度:★★☆☆☆
「がん登録って何?」と思われる方がほとんどかもしれませんね。ここまでくると、もう医療関係者の中でもピンポイントな、かなりニッチな資格です。
テレビやニュースなどで「日本人に多いがんは…」とか、「肺がんの5年生存率は…」といった統計を見聞きしたことはありませんか?あのような統計を発表しているのが、国立がん研究センターです。そして、そのもとになるデータを日々集めているのが、医療機関で「がん登録」に携わっている担当者たちで、その実務者向けに設けられているのが、この資格です。
私自身は、病院内での異動により、がん登録を担当する部署に配属されたことをきっかけに、必要に迫られてこの資格を取得しました。おそらく、医療事務職としてキャリアを積む中で、がん登録業務を担当することになり、その流れで取得するといったケースが多いのではないかと思います。座学だけではチンプンカンプンですし、実務と並行しながら勉強することでようやく理解の深まる資格だと思います。
自主的に取得するというよりは、「必要だから取る」資格という位置づけかもしれませんね。
ただ、医療機関によってはこの資格保有者の配置が義務付けられている場合があり、タイミングによっては重宝される資格だと思います。
医療経営士3級
取得した時期:医療機関で働き出して6年目くらい
難易度:★☆☆☆☆
稼げる度:★☆☆☆☆
医療機関をマネジメントする上で必要な医療および経営に関する知識と、経営課題を解決する能力を有し、実践的な経営能力を備えた人材です。
一般社団法人 日本医療経営実践協会より
医療経営士は2010年頃にできた、比較的新しい民間資格で、医療の現場を支える経営力を学ぶことができます。医療事務や病院で働く人のステップアップ資格として紹介されることもあります。
私も「将来、何かの役に立つかも…」と思って3級を取得しました。ですが正直に言うと、医療現場でこの資格が直接評価されたり、「これがあるから採用!」というようなことはあまりありません。
内容も、医療業界で長く働いている人にとっては一般常識レベルと感じるかもしれませんし、「医療経営士3級」と履歴書に書いても、評価が難しいのが現実です。
ただ、医療業界が初めての方にとっては、専門用語や仕組みを体系的に学べる良い入口になります。これから医療事務の仕事を始める方には、「業界の全体像を知る」という意味ではプラスになる資格かもしれません。
施設基準管理士
取得した時期:医療機関で働き出して8年目くらい
難易度:★★★★★
稼げる度:★☆☆☆☆
医療機関(病院や診療所など)が、診療報酬で特定の加算や点数を算定するために満たすべき要件のことを「施設基準」といいます。事あるごとに厚生労働省(実際は地方厚生局)への提出が必要なのですが、これがまた異常なほどに複雑な事務作業なのです。
「施設基準管理士®」は、病院が行う施設基準の届出を総合的に管理・運用する専門知識とスキルを獲得するための、日本で唯一の資格制度です。
一般社団法人施設基準管理士協会より
大きな病院になればなるほど、専従の職員が1人以上配置されていることも少なくありません。
これから医療事務の業界へ入ろうという方には無縁の資格かと思いますが、大規模病院でそれなりに働いていると施設基準と関わる日が来るかもしれません。
資格があるから手当が貰えるというよりは、必要に迫られて取得するパターンが多い資格かと思います。
最後に
これまで多くの資格を取得してきましたが、医療事務に関するものは民間資格が中心です。就職に直結すると言えるのは診療情報管理士くらいで、それ以外は、正直なところ、資格があっても評価が大きく変わることはあまりありません。
ただし、実務経験が重視されるとはいえ、最初は誰でも未経験からのスタートです。資格取得を通じて、知識やスキルを身につけていくことには大きな意味があります。この記事が、その一歩の参考になれば嬉しいです。
コメント